右も左も分からないままヨルダンに飛び込んで、学生として忙しい生活を送っていた私が初めてワディラムを訪れたのはもう10年以上前のことになります。
まだまだ知名度が低かったワディラム…。ベドゥインのテントも素朴で、ツーリスト向けなどという発想がまだなかった時代。それから時は流れ、ワディラムにも ”ラクジュリー” なキャンプ場が現れるようになりました。個人的には、砂漠でラグジュリー (高級感) なんて必要なのか? と思っていますが(笑)。砂漠というのは文明品が何もないところ。砂漠本来の美しさと砂漠ならではの不便さを味わうのが醍醐味なのでは? とひそかに思っているツアーコンサルタントの私です。
さて、私がワディラムで初めてキャンプしたのは10年以上前の6月でした。6月の砂漠でも、朝晩はかなり冷え込み、毛布をしっかりかぶって防寒していたことを思い出します。その日は空気が澄んでいて、星がとりわけくっきり見えていました。夜空に張り巡らされた天の川は、まるで黒のビロード生地にほどこされた繊細な銀細工のようで…、あまりにもきれいで眠るのが惜しく、一目でも見逃すまいと文字通り一晩中起きていました。
星が舞台を去った後は、しらじらと夜が明け始めて美しい朝焼けがやってきました。そのあとに朝日が昇りはじめ、静かな砂漠に生命の息吹を吹き込みます。まさに感動的な体験でした!
ワディラム砂漠はヨルダンの南部に位置する砂漠で、映画「アラビアのロレンス」の舞台となった砂漠でもあります。2011年に世界複合遺産として登録されました。アラビアのロレンスは、自著「七つの知恵の柱」の中でこの砂漠を「vast, echoing and Godlike」と表現しています。日本語では「広大に響き渡るは神の如く」と訳されるこの表現、ちょっと意味が分かりにくいのですが、ここに来られた方なら何となくイメージがつかめると思われるかもしれません。
多分ロレンスは、聞こえるものといえば風の音と反響する自分の声しかないこの静まりかえった広大な砂漠を、「神々しいまでに気高い」と表現したかったのでは、と思います。ワディラムの砂漠は本当に静かで、風の音しか聞こえない。
ワディラムは「月の谷」とも称され、赤い岩がボコボコと突き出たその姿は月面を思わせます。壁画や碑文などの考古学的遺産群も残されるユニークな砂漠。古(いにしえ)の過去から古代人がこの土地を行き巡って文化の足跡を残してきました。
歴史的価値もありますが、自然が作り出す雄大さもまた素晴らしい。下の写真は、有名はストーン・ブリッジ「ウンム・フラース」。登ってみるとかなり高く、足がガクガクします。
そして砂漠に生きる植物の逞しさ。
ワディラムの春には、砂漠にも小花が咲き乱れ、みずみずしい緑が月の谷を彩ります。「砂漠=何もない」わけではない。砂漠にしかないものがたくさんあります。冬には雪も降り、白銀の世界が広がることもあります。
今まで見てきた中で、砂漠といえばワディラムの砂漠が一番! 岩山が突き出た異次元の世界。こんな砂漠は他に類を見ないと思います。また帰りたいと思う飽きない場所。私の愛するヨルダンの風景。皆さまも、ヨルダンに来られたらこの非日常的な風景にぜひ身を置いて、「音のない」神々しい世界を体験していただければと思います。
ワディラム砂漠にはたくさんのキャンプ場があります。次回のブログではそのうちの1つをご紹介できればと思います。
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