喧噪のカイロ市内にある、まるで時が止まったかのような空間…「イブン・トゥルーン・モスク (Ibn Tulun Mosque) 」は、観光客が少なく、静かに過ごせる穴場スポットとして知られています。
カイロは良くも悪くも「騒がしい街」、クラクションが鳴りやまない街、呼び込みの声、人の波…。そんなカイロの中心にあるイブン・トゥルーン・モスクは、カイロ最古級のモスクとして知られ、歴史的にも非常に重要な建築です。

らせん階段が登れるミナレット

美しい回廊
インスタでも公開しています https://www.instagram.com/reel/DPnsUiSAqv0/?igsh=Yzc4aXg4NHB5MWRt
モスクの名称
英語では Mosque of Ibn Tulun (Ibn Tulun Mosque)
アラビア語では مسجد ابن طولون
と表示されます。
観光客の姿はまばらで、音も少なく、空が広い。同じカイロとは思えないほど、空気が違います。観光地なのに、閑散としている…。イブン・トゥルーン・モスクは、カイロに現存するモスクの中でも最古級。それにもかかわらず、不思議なほど人が少ない場所です。
理由はいくつかあります。いわゆる「有名観光ルート」から少し外れている、派手さや豪華さが控えめ、SNS 映えはそれほどしない…などなど。とはいえ、そのシンプルさの中に美しさと魅力が隠されているのがこのモスク。
9 世紀のまま残る、カイロの原点
イブン・トゥルーン・モスクは、876〜879 年に建設されました。建立したのは、アッバース朝の総督であったアフマド・イブン・トゥルーン。名前から何となく感じられた方もおられるかもしれませんが、トルコ系の出身。父親が中央アジア出身のテュルク系の人物だったといわれています。そのせいもあり、ここではトルコ人観光客を見かけることもあります。
アフマド・イブン・トゥルーンはエジプトで半独立政権「トゥルーン朝」を築き、その首都として「アル・カターイ」という都市を建設します。このモスクは、その中心に据えられたもの。
そして現在、カイロにおいて最も完全な形で残る 9 世紀のモスクです。ファーティマ朝、マムルーク朝と時代が変わっても、大きく改築されることなく残り続けました。これはカイロの歴史の中でも、かなり珍しいケースです。
イブン・トゥルーン・モスクの見どころ | シンプルだからこそ際立つ美しさ
このモスクの特徴をひとことで言うと、「シンプル」です。石ではなく、レンガと漆喰で作られています。広大な中庭とそれを囲む回廊、アーチ部分のアラベスク模様、控えめながら美しいミフラーブ装飾…。
いわゆる「豪華なイスラム建築」とは少し違います。しかし、この簡素さこそが魅力。装飾が少ない分、光・影・風の動きがはっきりと感じられます。
歩いていると、建築というより「空気のデザイン」を体験しているような感覚になります。以下はこのモスクで見ることができるもの。
広大な中庭 (約 90m 四方)
100 本以上の柱が並ぶ回廊
中心部分にある噴水 (現在は水なし)
複数のミフラーブ (礼拝方向を示す壁のくぼみ)
キブラ壁 (メッカ方向の壁)

中庭の中心にあるのが噴水 (今は水はありません)

このモスクにはミフラーブ (礼拝方向を示す壁のくぼみ) が複数存在します。↑ これもその一つ。中には後の時代に追加されたものもあり、この写真のように非常に装飾的なミフラーブも見られます。シンプルな外観とは対照的に、こうした細密な装飾が残されているのも、このモスクの面白さのひとつです。

アーチ部分には、漆喰を彫り込んだ繊細なアラベスク装飾が施されています。派手さはないものの、光の当たり方によって陰影が浮かび上がり、このモスク特有の静かな美しさを感じさせてくれます。
あの「らせんミナレット」に登る
このモスク最大のアイコンが、らせん状のミナレット。外側にぐるぐると巻き付く階段は、イラク・サマッラーの大モスクをモデルにしたといわれています。
実際に登ることも可能です。ミナレットに上るという体験ができるモスクはそうそう多くありません。少しずつ高度が上がり、振り返るたびに景色が変わっていく感覚はなかなか楽しいもの。

らせん階段の途中で撮った景色
頂上から見えるのは、静かなモスクとは対照的なカイロの雑然とした街並み。このギャップも、この場所ならではの体験です。

らせん階段を登り切って撮った写真

カイロの街並みを見ることができます。遠くから聞こえるクラクションの音がこのモスクの静けさをより際立たせます。
「何もない」ことの価値
イブン・トゥルーン・モスクを歩いていると、ふと気づきます。ここには「観光的な見どころ」がほとんどありません。
豪華な装飾も、巨大なドームも、派手な展示もない。ですが、その代わりにあるものがあります。静けさ、空の広さ、時間の流れの遅さ…

カイロの観光に少し疲れたとき、この場所はちょうどよい休憩場所になります。
映画「007/私を愛したスパイ」のロケ地
ちなみにこのモスクは、映画のロケ地としても知られています。代表的なのが「007/私を愛したスパイ」。スクリーンの中では緊張感のある舞台ですが、実際に訪れると、驚くほど穏やかな空間です。
イブン・トゥルーン・モスクの基本情報は以下の通りです。
アクセスと基本情報
名称:イブン・トゥルーン・モスク (Ibn Tulun Mosque)
場所:カイロ旧市街 (サイーダ・ゼイナブ地区)
アクセス:ウーバーまたはタクシーで「Ibn Tulun Mosque」と指定
観光可能な時間:9 時から 16 時
入場料:無料 (ただし少額のチップを求められることもあり)
所要時間の目安:30 分〜1 時間
建立:876〜879 年
イブン・トゥルーン・モスクの場所と分かりにくい入り口
このモスクは敷地が非常に広いので、入り口が分かりにくい。地図を張り付けておきます。矢印の部分が入り口となります。
シタデルからは徒歩で約 40 分。車では約 20 分。シタデルとセットで訪れるのもお勧め。ただしシタデル周辺には一般の人の生活空間がないため、ウーバーはあまり見かけません。ですから、シタデル周辺ではウーバーの待ち時間がかなり長くなることもあります。
またこのモスクのすぐ隣には「Gayar Anderson Museum」があります。これは、16‐17 世紀のオスマン時代のイスラム邸宅がそのまま博物館となったもの。イギリス人将校ロバート・ガイヤー・アンダーソンが 1935-1942 年にここに住んでいました。彼が家具や美術品やカーペットなどを集め、退去時にすべてエジプト政府に寄贈したといわれています。ですからオスマン時代の家 + 個人コレクションの博物館です。
治安に問題はなし。ただし訪れる時間に注意
お勧めの時間は、朝からお昼過ぎ。ただし真夏はかなり暑くなりますので、お昼時はつらいかもしれません。
夕方の訪問はあまりお勧めできません。というのも、この周辺は道が細く混雑しているため、ウーバーが入りにくいエリアです。この周辺の乗り物としてはトゥクトゥクが一般的。そのため、ウーバーの配車まで時間がかかる場合があります。かなり庶民的な場所なので、明るいうちに訪れることをお勧めします。帰りは少し歩いて大通りまで出ると、スムーズに車を呼べるかもしれません。
服装・撮影の注意点
あまり露出しない服装で。女性であっても頭を覆うことが求められるわけではありませんが、イスラム教徒への配慮としてスカーフなどを頭にふんわりかぶせるのがお勧め。
靴は入り口で脱ぐようになっています。靴を預かってもらうので、最後に少額のチップを渡してください。
撮影は基本的にどこでも OK。ただし現地の女性がなるべく入らないようにご配慮ください。エジプトではほとんど問題になりませんが、人によっては写真に写ることを嫌がる場合もあります。
まとめ
イブン・トゥルーン・モスクは「有名ではないけれど、本質的な美しさがある場所」です。カイロには、強烈なインパクトを持つ観光地が数多くあります。そんな中でこのモスクは少し異質。とてもシンプル。でもその静寂に身を置くことで自分を取り戻せる気がします。
こんな方にお勧めです。
カイロの喧騒に疲れた人
人が少ないニッチな観光地を探している人
建築やイスラム文化に興味がある人
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