シナイ山登頂完全ガイド|モーセが十戒を授かった聖なる山を歩く【エジプト・シナイ半島】

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はじめに

エジプト・シナイ半島に位置するシナイ山(Jabal Musa)。
 
ここは、旧約聖書の中でモーセが神から十戒を授かった場所として知られ、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の三つの宗教にとって特別な意味を持つ聖地です。現在も世界中から巡礼者が訪れ、真夜中から山頂を目指して歩き、夜明けを迎える巡礼が続けられています。
 
私も今回、ダハブから出発するローカルツアーに参加し、シナイ山を登ってきました。
 
この記事では、
 
  シナイ山とはどんな場所なのか
  モーセと十戒の物語
 「本当のシナイ山」はどこなのか
  聖カタリナ修道院とシナイ写本
  実際の登山の様子
  ツアーの選び方
  持ち物や注意点
 
まで、実体験を交えながら詳しくご紹介します。

シナイ山とは

シナイ山は標高約 2,285 メートル。エジプト・シナイ半島南部に位置し、「モーセの山」とも呼ばれています。
 
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この山が特別なのは、旧約聖書「出エジプト記」において、モーセが神から十戒を授かった場所と伝えられているためです。エジプトで奴隷となっていたイスラエルの民を率いて脱出したモーセは、この山で四十日四十夜を過ごし、神から十戒を授かりました。
 
そのため、この場所はユダヤ教・キリスト教・イスラム教の三宗教共通の聖地となり、今日まで巡礼が続いています。

シナイ山は「ホレブ山」とも呼ばれる

聖書には、この山は「シナイ山」だけでなく「ホレブ山」という名前でも登場します。

現在では両者を同じ山と考えることが一般的ですが、聖書学や歴史学では、「ホレブ山はシナイ山脈に連なる別の峰だったのではないか」という説もあります。

実際に現地を訪れてみると、その説にも納得できる景色が広がっていました。

シナイ山は、一つだけの山ではなかった

今回、私が最も驚いたことの一つが、その地形でした。シナイ山へ行く前は、「広い荒野の中に一つだけ高い山がそびえている」と勝手に想像していました。

しかし、実際はまったく違います。目の前に広がるのは、岩肌がむき出しになった険しい山々。切り立った禿げ山が幾重にも連なり、地平線まで続いています。

 

シナイ山山頂から望むシナイ山脈。赤く染まる岩山が連なるエジプト・シナイ半島の絶景

 

つまり、「シナイ山だけ」があるのではなく、シナイ山脈を構成する数多くの峰の一つが、現在巡礼地となっているシナイ山なのです。その景色を見た瞬間、「ホレブ山はこの山脈の別の峰だったのではないか」という説が、とても自然に思えました。

本当のシナイ山はここなのか

実は、現在巡礼地となっているシナイ山が、モーセが登ったシナイ山そのものであると証明されているわけではありません。

 

旧約聖書では、エジプトを脱出したイスラエルの民は約 300 万人とも伝えられています。もしそれだけの人々が山の麓に集まったのであれば、非常に広く平坦な土地が必要になります。しかし、現在の聖カタリナ修道院周辺は、険しい山々に囲まれた谷のような地形です。そのため、「本当のシナイ山は別の場所ではないか」という説が今も存在します。

 

シナイ半島には有力な候補地もありますが、そこを訪れるにはプライベートガイドなど特別な手配が必要です。一方、現在のシナイ山は 4 世紀頃から巡礼地として受け継がれ、世界中から巡礼者が訪れる聖地として確立されています。

 

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山頂付近にある教会の鐘

聖カトリーナ修道院 ― シナイ山登山の出発点

シナイ山の麓、標高約 1,400 メートルに建つのが、世界最古級の修道院として知られる聖カトリーナ修道院です。6 世紀に創建されたこの修道院は、現在ユネスコ世界遺産にも登録されています。

シナイ山登山は、この修道院前から始まります。ツアーの車もここまで入るため、登山はすでに海抜約 1,400 メートルからスタートします。

山頂は標高約 2,285 メートルですが、実際に登る標高差は約 900 メートルです。しかし、登山道は山腹を大きく回り込むように続いているため、歩行距離は片道約 7 キロあります。数字以上に歩き応えのあるトレッキングです。なお、最初の 6 キロはラクダで登ることもできます。値段は、2025 年 9 月の時点で、850 エジプトポンド(約 17 ドル)。ただし最後の 1 キロは徒歩でしか登れません。かなり急こう配で、不揃いな石の階段が続くためです。

世界的な宝「シナイ写本」が発見された場所

聖カトリーナ修道院は、建物そのものだけでなく、聖書研究の歴史においても極めて重要な場所です。1844年、この修道院で「シナイ写本 (Codex Sinaiticus)」が発見されました。これは 4 世紀、およそ 1,600 年前にギリシャ語で書かれた現存最古級の聖書写本です。

発見当時、この古い羊皮紙は処分される古文書の中に混ざっており、一部はすでに焼却されてしまっていました。現在、その大部分は大英図書館に所蔵され、一部は今も聖カトリーナ修道院に残されています。シナイ写本は、バチカン写本と並び、現代の聖書本文研究や多くの聖書翻訳の基礎となる極めて重要な写本です。

私が訪れた日は金曜日だったため修道院内部を見学することはできませんでしたが、この場所に立つだけでも約 1,600 年の歴史の重みを感じることができました。

夜10時、ダハブを出発

今回私は、ダハブのローカル旅行会社が催行するシナイ山ツアーに参加しました。ホテルを午後 10 時頃に出発し、約 1 時間半かけて聖カトリーナ修道院へ向かいます。途中にはいくつかの検問があります。

深夜 0 時頃、いよいよ登山が始まります。

真っ暗な登山道は想像以上の苦労

今回の登山で最も苦労したのは、暗闇でした。参加したツアーではヘッドライトについて特に案内がなく、「スマートフォンのライトで十分だろう」と考えていました。
 
しかし、甘かったことはすぐに分かりました。スマートフォンのライトでは照らせるのは足元だけ。その先は闇に吸い込まれ、一歩先に何があるのかまったく分かりません。しかも登山道には大小さまざまな石が転がっています。出発地点の聖カトリーナ修道院付近はきちんと整備されていますし、明るい。でもすぐに石がゴロゴロしたラフな登山道へと変わり、光もなくなります。
 
ガイドを務めるのは、この地域で暮らすベドウィンの人々です。彼らは夜の山に慣れているため、暗闇でも驚くほど速いペースで歩いていきます。特に若いガイドは悪気なくどんどん先へ進んでしまうこともあり、取り残されると目の前には真っ暗な登山道しかありません。
 
段差なのか、岩なのか、それとも崖なのか。
 
初めて歩く山道で一歩先さえ見えない。ある意味、恐怖でした。こけないように全神経を集中させます。しかも登りはかなりの運動量で、2 リットルほどのボトルや防寒着を詰め込んだ荷物を抱えながら、息もだんだん切れてきます。
 
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シナイ山に住み着いている猫。登山中に猫や犬に迎えられました。息を切らしつつもホッとする瞬間。
 
 
これからシナイ山へ登る方に、一番お伝えしたいことがあります。明るいヘッドライトは必ず持参してください。スマートフォンのライトでは光量がまったく足りません。
 
登山用のヘッドライトがあれば数メートル先まで照らすことができ、岩場でも両手が空くため安全性が大きく向上します。今回の登山で「一番持ってくればよかった」と後悔した持ち物でした。
 
なお、トレッキングポールは想像以上に大活躍してくれました。このおかげで筋肉痛になりませんでしたが、一緒に行った友達は、太ももの筋肉痛がかなり辛そうでした。

シナイ山登山の服装・持ち物|夏でも防寒対策は必須

シナイ山はエジプトにありますが、先ほども書いたように、山頂付近は標高約 2,285m。想像以上に気温が下がります。
 
実際には標高約 1,400m にある聖カトリーナ修道院から登山を開始するため、標高差は約 900m ですが、夜間に登ることもあり、山頂は夏でもかなり冷え込みます。
 
特に冬はさらに厳しく、シナイ半島はエジプトで唯一、本格的に雪が積もる地域としても知られています。山頂が雪景色になることも珍しくありません。そのため、季節を問わず防寒対策は必須です。ただし冬の登山はお勧めしません。
 
私がおすすめする持ち物
 
 明るいヘッドライト (スマートフォンのライトでは不十分)
 防寒ジャケット
 フリースなど保温できる上着
 ニット帽
手袋
 歩きやすいトレッキングシューズまたはスニーカー
 飲料水
膝への負担を避けたい方は、トレッキングポール
 
なお、山頂ではベドウィンたちが毛布を貸し出しています。料金は、私が訪れた 2025 年 9 月の時点で 1 枚 100 エジプトポンドでした。一緒のグループだったエジプト人の女の子は半そで半ズボンで参加しており、山頂での毛布は必須でした。
 
寒さが苦手な方にはありがたいサービスとはいえ、100 ポンドは決して安くありません。リュックに軽いダウンやウインドブレーカー、防寒着を 1 枚入れておけば安心です。
 
「エジプト=暑い」というイメージを持っておられる方も多いと思いますが、シナイ山はそのイメージを完全に覆します。夏でも山頂は想像以上に寒く、ジャケットやマフラー、帽子は必須でした。

山頂で迎える夜明け

数時間歩き続けると、ようやく山頂に到着します。眼下には、岩山だけが果てしなく続くシナイ半島。木々はほとんどなく、荒々しい岩肌がどこまでも連なっています。
 
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頂上に着いたのは午前 3 時過ぎで、日が昇るまでに 2 時間ほど時間があったので、カフェで仮眠。このカフェでベドウィン・ティーもいただきました。100 ポンド!カイロにいたら絶対に払わない金額です…。
 
その後、午前 6 時くらいから朝日が昇るのをひたすら待ちます。
 
やがて東の空がゆっくりと明るみ始めると、それまで黒いシルエットだった山々が次第に姿を現します。何千年もの昔、預言者モーセがこの景色を見つめたことを思うと、感動もひとしおでした。
 
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太陽が昇りきると下山の開始

木々も影もない切り立った岩山は、太陽が昇ると急速に暑くなり始めます。太陽は容赦なく照り付けます。
 
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急いで下山を開始します。途中で動物たちが朝の挨拶をしてくれます。せめて猫えさを持ってきたらよかった…と後悔しました。
 
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ふもとにたどり着いたのは、9:30am 頃。この後、修道院の見学ができます。私たちのツアーは木曜日の夜に始まり、下山は週末の金曜日にあたりました。そのため、修道院も閉まっており見学はなし。
 
ここからダハブのホテルまで送迎車で移動し、このツアーは 11-12 時頃に終了。ほぼ眠らずに迎えたこの日はもうぐったりでしたので、他の活動は入れず。

シナイ山ツアーはどこで申し込む?

シナイ山登山は、ダハブとシャルム・エル・シェイクのどちらからでも参加できます。ただし、シャルム・エル・シェイクからのほうが距離的には少し近めになります。私はダハブを拠点にしていたので、ダハブのローカル旅行会社のツアーに参加しました。料金は、交渉して 900 エジプトポンドとなりました。エジプトでは、提示された値段からの交渉をお勧めします。さらに安いツアーでは 800 エジプトポンド前後から見つかります。

一方、日本の旅行会社や現地手配会社を通すと、1人あたり約 90 米ドル前後になることが一般的です。その代わり、完全なプライベートツアーとなり、2 人で申し込めば 2 人だけで行動できます。ローカルの旅行会社の場合は参加者をホテルからピックアップしていくので、時間が少しかかります。

ガイドの質は、実はあまり変わらない

意外かもしれませんが、ガイドの質については料金ほど大きな差はないように感じました。というのも、実際に山を案内するのは、どのツアーでも地元のベドウィンだからです。

ローカルツアーでも、日本の旅行会社経由のプライベートツアーでも、山に入れば案内するのは同じベドウィンです。もちろん、ガイドには当たり外れがありますが、それはツアー料金とはあまり関係ありません。

私自身も、若いガイドがどんどん先へ進んでしまい、なんて気が利かないやつなんだ!せめて荷物くらい持ってくれたらいいのに…と暗闇の中で唖然としました。

というわけで、私個人の感想としては、費用を抑えたいのであれば、ダハブやシャルム・エル・シェイクのローカルツアーで十分満足できると思います。

登山は真夜中に始まるため、道中は真っ暗です。朝日を見るのも山頂に到着してからなので、ローカルツアーでもプライベートツアーでも体験そのものに大きな違いはありません。

一方で、プライベートツアーには、自分たちだけで参加できる安心感があります。一方、ローカルツアーは日によって参加人数が多くなることもあります。「費用を優先するか」「プライベート感を優先するか」で選ぶのが良いでしょう。

なおガイドにはチップが必要です。ツアーの終わりにお1人様当たり50‐100 ポンドのチップをお渡しください。私は今回の若者ガイド ー 私の心の中では「若造ガイド」でしたが ー に満足したわけではありませんでしたが、礼儀として一応渡しておきました。ただし、旅行会社にその後クレームを入れたのは言うまでもありません。

まとめ

シナイ山は、単なる登山スポットではありません。

 

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 モーセが十戒を授かったという聖書の物語。

 三宗教に受け継がれてきた巡礼の歴史。

 世界最古級の修道院とシナイ写本。

 そして、想像していた一つの山ではなく、荒々しい岩山がどこまでも続く壮大な山脈の風景。

 暗闇の中を歩き続け、静かに訪れる夜明けを迎える。

 

その体験そのものが、この山を特別な場所にしているのだと思います。宗教的な背景を知らなくても、シナイ山には「ここでしか味わえない風景」と「不思議な聖地感」があります。中東らしい雄大な自然を歩きたい方にも、ぜひおすすめしたい場所です。

 

そして、シナイ山登山と合わせてダハブやシャルム・エル・シェイクなど紅海でのダイビングやシュノーケリングもぜひお楽しみください。ダハブは世界屈指のダイビングスポットで、シュノーケリングだけも圧巻です。ダハブについても、別記事で詳しくご紹介します。

 

紅海のリゾートと、何千年前からの聖地。その両方を一度の旅で体験できる場所は、世界でもそう多くありません。魅力にあふれたシナイ半島は、その貴重な体験ができる場所の一つでした。

モーセの物語は、ネボ山へと続く

私はシナイ山を歩きながら「この旅はここで終わりではない」と感じました。モーセの物語は、この後ヨルダンのネボ山へ続いていきます。
 
シナイ山で神から十戒を授かったモーセは、その後 40 年間にわたってイスラエルの民を荒野へ導きます。しかし、モーセ自身が約束の地カナンへ足を踏み入れることはありませんでした。
 
120 歳になったモーセは、現在のヨルダンにあるネボ山の山頂から約束の地を見渡し、その生涯を終えたと聖書には記されています。つまり、シナイ山はモーセの使命が始まった場所であり、ネボ山はその人生の終着点なのです。
 
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ネボ山から約束の地パレスチナを望む。モーセが見たのと同じ風景ですが、霞がかっています。モーセはパレスチナをはっきり見渡すことができました。
 
 
私は以前の記事で、ヨルダンのネボ山についても詳しく紹介しています。シナイ山と合わせて読むと、モーセが歩んだ 40 年の旅路がより立体的に見えてくると思います。
 
ネボ山完全ガイド|モーセ終焉の地から望む約束の地と死海
 
二つの山を訪れると、旧約聖書の物語が地理としてつながって見えてきます。

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